歌劇 『パサジェルカ』
歌劇 『パサジェルカ』 ~ブレゲンツ音楽祭2010~
原 作:ゾフィア・ポスミシュ
作 曲:モイセイ・サムイロヴィチ・ヴァインベルク
演 出:デーヴィッド・パウントニー
指 揮:テオドール・クレンツィス
衣 装:マリー・ジャンヌ・レッカ
出 演:
リーザ=ミシェル・ブリート
ワルター=ロベルト・サッカ
マルタ=エレナ・ケレシディ
タデウシュ=アルトゥール・ルチンスキ
カーチャ=スヴェトラーナ・ドネワ
クリスティーナ=アンゲリカ・ヴォーイェ
ヴラスタ=エルジビエタ・ヴルブレフスカ
ハンナ=アグニェシュカ・レフリス
イヴェッテ=タリア・オール
ブロンカ=リューバ・ソコロワ
2010年7月 ブレゲンツ祝祭劇場
(NHKの放送を録画視聴)
リーザは外交官の夫と新たな赴任地へ渡る船の上にいます。
順風満帆に見えた人生とこの航海ですが、ある人影に悩まされるようになります。
いや、他人の空似だ。あの女は間違いなく処刑室へ送ったたはずだ。
半信半疑ながらも、告発されれば外交官の夫と自分の人生は破滅してしまうという恐怖、そして罪そのものの大きさにおののきながら彼女の回想が始まります。
(リーザはこの時まで夫に過去を隠していました。)
舞台には船上を表現する上部構造と収容所を表現する下部構造を持った大掛かりな装置が据えられており、そこを中心に話が進んでいきます。
過去を隠し、人生に成功している船上のリーザ
冷酷な看守のリーザ
原作者のポスミシュ(女性)は18歳から3年間をアウシュビッツで過ごしました。
彼女は戦後15年経ったパリで看守そっくりの呼び声を聞き恐怖が蘇ったといいます。
そんな恐怖の実体験を糾弾されるべき側に転嫁して書いた話というのがまた、恐怖心を盛り上げる要因になっているのでしょう。
キャリアはソ連で積んでおり、やはりそこでも苦難の連続だったようです。
完全には調性を失わないがホモフォニーの心地よさは捨てていて、どの響きにも解決を求める推進力があるような音楽。
安住の地を失った現代人の心境そのままのような音楽です。
音楽芸術として感覚的な充足感を得るといった種類の作品ではありません。
文学的と言えるでしょう。
ただし音楽表現は精緻で巧みで、決して失望はしません。
歌手陣は私は知らない人ばかりですが申し分ありませんでした。
主役のリーザーを歌ったM・ブリートは南アフリカで青春時代を過ごしており、国家による市民の締め付けを実体験しているそうです。だから、特別な共感があったようです。
指揮のクレンツィスは大変若い人ですがヴィジョンが明確で指導力に不安はなさそうです。
[2012-5-20]