森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

《ドン・カルロ》 メトロポリタン歌劇場

イタリア語5幕版


演 出:ニコラス・ハイトナー出 演:
 エリザベッタ=マリーナ・ポプラフスカヤ
 フィリッポ二世=フェルッチオ・フルラネット
 エボリ公女=アンナ・スミルノヴァ
 ロドリーゴ=サイモン・キーンリーサイド
 大審問官=エリック・ハルフヴァルソン


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アラーニャは甘さも情熱も迫力も「これがアラーニャ?」と思うほどで、この大作を十分に支えています。
ロドリーゴと対比してちょっと育ちの良いところなどはピッタリです。

そのロドリーゴはサイモン・キーリンサイド。

目的意識がしっかりしていて自分の志に準じる人物像にこの人の容貌と声質は、方向性が違えど《ドン・ジョバンニ》とも共通していてしっくり来ます。



エリザベッタ役のマリーナ・ポプラフスカヤは、恋人であり母親でもあるという二重性を自ずと体現するような温かくて安定感のある声質で、やはり素晴らしいものです。
ちょっとペヤングおじさんを想起してしまう容貌なのが申し訳なくも邪魔な連想になってしまうのだけど。

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エボリ公女役のアンナ・スミルノヴァはエリザベッタに間違うはずもない体型だけど、とても美しい声のアルトです。

大きな体ではあるけど品のある容貌で、この上演では一番華を感じる人物になっているのはご愛嬌でしょう。

このオペラで唯一笑えるシーンもこの人のお陰で引き立っています。






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さて実はこのオペラで一番悩み多き迷える人物であるフィリッポ二世はフェルッチオ・フルラネット。

想像以上に威厳を纏って大帝国であったスペイン王を熱演していますが、やや枯れすぎていて、もう少し感情的な波を表現してくれたら長大なモノローグがより深く強くなっただろうと感じました。









相対的にドン・カルロの我が強くはなく、誰が主役だかよくわからなくなるこのオペラで筋を通すのはやはり音楽です。

ヤニック・ネゼ=セガンは若いにもかかわらず本当に素晴らしい表現力を持っています。
柔らかいところもリズミカルなところも引き締めるべきところも、実に行き届いた演奏をします。

この長大なオペラを気持ちが緩むこと無く見続ける事ができるのは彼の求心力のある音楽作りの賜物です。


[2012-3-31]