ヴェルディ 歌劇《ファルスタッフ》 チューリヒ歌劇場
指 揮:ダニエレ・ガッティ
合 唱:チューリヒ歌劇場合唱団
演 出:=スヴェン・エリック・ベヒトルフ
出 演:
アリーチェ=バルバラ・フリットリ
フォード=マッシモ・カヴァルレッティ
ナネッタ=エヴァ・リーバウ
クイックリ夫人=イヴォンヌ・ネフ
メグ・ページ夫人=ユディット・シュミット
フェントン=ハビエル・カマレナ
ケイアス=パトリツィオ・サウデルリ
バ一ドルフ=マルティン・ツィセット
ピストル=ダヴィデ・フェルシーニ
2011年3月25日・27日 チューリヒ歌劇場
NHKの放送を録画視聴
ヴェルディ最後のオペラにして史上最後のオペラ・ブッファ。
構えること無く気楽に見ることができるヴェルディらしからぬオペラです。
何よりも歌が大変立派で、ともするとファルスタッフが落ち着きのある大人物に見えてしまう程です。
そういう意味では、ファルスタッフそのものに成りきっているかどうかは疑問ですが、ヴェルディの安定感のある音楽からは少しはみ出して悪役を演じているのは音楽的・演出的な品格の上では大変好ましいものに思えます。
もっとハチャメチャに演じることは簡単でしょうが、現代的なリアリティーを加味してあるのでこの辺が落としどころでしょう。
アリーチェのバルバラ・フリットリも歌の難易度を全く感じさせない堂に入った歌唱で、演技も落ち着き払って立派です。
しかし私が感心したのはナネッタ役のエヴァ・リーバウ。鈴を転がすような可憐な声で、大変魅せられました。
このような声はメトやスカラ座では通用しないのでしょうか。
しかし大劇場で張り上げて欲しいとは全く思えません。大切に美しい歌唱を育んで欲しいと感じる歌声です。
これについてはフェントン役のハビエル・カマレナも同じです。
その繊細な歌唱は力強さや輝かしさという尺度で測ってはいけない、大変チャーミングなテノールです。
この二人の恋人役が相性の良い警戒で可愛らしい歌を聴かせてくれました。
演出で面白かったのは、ある人物にスポットが当たっている最中他の役者が動作の途中で静止し、語り手の内面だけが進行しているように見えるところです。
長いアリアの最中中途半端な姿勢で止まったままというのはかなり大変でしたでしょう。
その甲斐あって面白い効果を出していました。
チューリヒのオーケストラもいつになく精緻に、かつ心地良く聴こえました。
「人間はみないかさま師、最後に笑う者が、本当に笑う者なのだ」
愚か者の放言とは思えない意味深長なセリフ。
オペラ・ブッファに欠かせない皮肉や寓意がタップリの軽快なオペラを巧みに演じていて、満足を得ることができました。
[2012-3-26]