森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

歌劇《ハムレット》 キーンリーサイド

歌劇《ハムレット
トマ作曲

演 出:パトリース・コリエ&モーシュ・ライザー
合 唱:メトロポリタン歌劇場合唱団
指 揮:ルイ・ラングレ 
出 演:
 ハムレット=サイモン・キーンリーサイド
 オフィーリア=マルリース・ペーターゼン
 ガートルード=ジェニファー・ラーモア
 クローディアス=ジェイムズ・モリス

NHKの放送を録画視聴)

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陰謀と恋と優柔不断な主人公。
とてもオペラになりやすいプロットだと思うのだけど終始陰気さが支配している所が難点でしょうか。

メトでは100年以上演されなかったハムレットを取り上げる事になったのは、キーンリーサイドの成功があるからだそうです。

オフィーリア役のデセイが直前で病気降板してしまったため急遽呼ばれたマルリース・
ペーターゼンの歌いっぷりも話題だそうです。


初めて聴いたのですが、オーケストレーションがとてもマトモである意味地味です。

指揮のルイ・ラングレはそんな地味なオーケストレーションを何のてらいもなく指揮していてとても面白みに欠けるのだけど、それだけでなく動きのあるフレーズやリズム、声部の対話なども全く無頓着にベッタリもっさりと演奏するので実にシンドい音楽でした。


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さて、キーンリーサイドですが、私は彼のドン・ジョヴァンニがなかなか好きで歌手としては期待大なのですが、はたしてハムレット王子に合ったキャストなのか?

結果私の印象ではイケイケのドン・ジョヴァンニと全く逆のウジウジ王子にはキーンリーサイドはあまり合っていないように感じられました。

声は非常に安定感があるのですが、それがそもそもハムレットらしくない。

言っても仕方ありませんがそもそもこの役にバリトンとは?やはりテノールなのでは?


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カバーのペーターゼンはウィーンでの舞台の最中で、電話で演出関連の打ち合わせをするほどギリギリの状況だったようです。

しかしこのペーターゼン、素晴らしい歌唱力のある歌手でした。

狂乱の場のアリアは難曲で姿勢も非常に歌いづらそうですが、それを物ともせず見事に聴かせました。
ショーピース的な聴かせ方としてはかなり満足の高い歌唱です。

ただし、初々しオフィーリアがハムレットの謎めいた仕打ちによって精神崩壊していく様はあまり表現できていたとは言えないように思います。


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それに比べて王妃ガートルードのジェニファー・ラーモアが実に見事。

ネチネチと責めてくるハムレットとのやり取りはパワー爆発で迫真の演技・歌唱でした。

歌唱力もキャラクター表現も本当に見事で、この人がいてくれたお陰で観た甲斐があったと言えるものでした。






全体的にははじめの印象と同様、ハムレットの「嘆き」より「懊悩」が支配したムードで、その意味ではバリトンに合ってはいるけど重苦しいステージでした。

もう一つ。

ハムレットだけどうしてクタクタのトレンチコート姿なのでしょう?ズボンも現代のズボンにベルト。
王子なのですが。
まるで、新人ホームレスのようです。
他の役柄はみな普通に歴史物のコスチュームなので、この演出意図が全く理解できず感情移入を阻む要因になりました。

ハムレットだけが異邦人のように浮いている事を表しているのでしょうか?


[2012-1-15]