森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

《夏の夜の夢》 トルンカの人形劇

夏の夜の夢

原作:ウィリアム・シェークスピア
監督:イジートルンカ


夏の夜の夢。
現在でもクラシックの世界では《真夏の夜の夢》と表記されますが、夏至の夜の話ですので6月下旬、『真夏』ではありませんね。

それはさて置きシェークスピアの作品としてはブラックな部分が少なく、ファンタジーにうってつけです。

初めて読んだ当初は人間関係が少しややこしいと感じたものですが、西洋のオペラや演劇ではよくある黄金パターンとも言えるでしょう。

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左右に分けた画面の、右側に仲睦まじいハーミアスとライサンダーの様子を、左にヤキモチを焼くディミートリアスを配しています。







私は人形劇には疎くイジートルンカという作家も全く知りませんでしたが、あまりに素敵なので見終えてから調べてみるとチェコの巨匠でカリスマ的な作家のようですね。


日本で盛んな操り人形劇ではなくストップモーションで撮影した非常に労力の掛かりそうな作品です。

基本的な色設計がとてもシックで、暗さに馴れた目にライティングが映えます。
全体的な雰囲気は落ち着いているのですが劇的な効果を出していると言えるでしょう。

そこへオーバーラップやコマ割りといった合成を駆使した多彩な表現で、まるで絵本のような効果を出しています。


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「妖精の女王ティターニアは森の全ての者から慕われている。」

小さな妖精や虫や鳥たちなど、小さなオブジェが活き活きと動いています。





人形の動きはバレエのようです。

空間表現と絵画表現と人物たちの躍動感とが合わさった大変よくできた作品です。

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花々に水をやり次々と咲かせていく妖精。

羽は細かく振動し、ミツバチのような動きが表現されています。









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森を愛する美しいティターニア











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まどろんだ所を夫婦喧嘩中のオベロンがいたずらで・・・










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ロバ頭になってしまった役者にかいがいしく愛を注ぐ哀れな女王ティターニア。








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その哀れさに、却って愛を深める妖精王オベロン。










テキストもシェークスピアの戯曲通りではなく、優しく翻案されているようです。
シェークスピアでは登場人物がストーリーの駒のように感じることもあるのですが、この作品ではどの登場人物にも愛の眼差しが注がれているのを感じます。


素晴らしい作家で作品でした。


印象に残ったセリフを書きだして見ました。

パックに狂わされ浮かはしゃぐ若者たちにオベロンが言うセリフ。

村に一番鶏が鳴くまでせいぜい回っていなさい。
そして満腹になるまで嫉妬を、狂おしさ、迷い、疑いを味わいなさい。
幸せで満ち足りた愛がどんなに尊いか明日になってわかるように、思う存分味わうがいい。

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物語の大団円のあとのナレーション

魔法の冗談を操れるのはパックに限ったことではない。
夢見るとき我らも魔法を操る。
眠りに落ちつつ妖精と交わす杯。
我らが見る夢に人生を導くものあり
我らが見る夢に永遠あり。

まったくシェークスピア殿の見る夢と言ったら!

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オベロン王は妖精パックを息子のようにかわいがっています。
大団円後も夫婦でパックと乾杯!

是非劇場で見直したい作品です。


[2011-12-18]