森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

《アドリアーナ・ルクヴルール》 - トリノ・レージョ劇場

チレーア 《アドリアーナ・ルクヴルール》

演 出:ロレンツォ・マリアーニ
指 揮:レナート・パルンボ
管弦楽トリノ・レージョ劇場管弦楽団
合 唱:トリノ・レージョ劇場合唱団
出 演:
アドリアーナ・ルクヴルール=ミカエラ・カロージ
マウリツィオ=マルセロ・アルバレス
ブイヨン公=シモーネ・デル・サヴィオ
ブイヨン公妃=マリアンネ・コルネッティ
ミショネ=アルフォンソ・アントニオッツィ

2009年7月5・8日 トリノ・レージョ劇場(王立歌劇場)



1730年、パリのコメディ・フランセーズの看板女優アドリアーナ・ルクヴルール。

彼女はマウリツィオと恋仲だが、マウリツィオは地位を得るためにブイヨン公妃の恋心を利用していた。

この三人の駆け引きが悲劇を生む。



アドリアーナの素直さと勝気さ。
公爵夫人の愛欲。
マウリツィオのご都合主義。
ミショネの献身。

性格と動機の異なる面々が個性いっぱいに飛び回る楽しいオペラです。
旋律もオーケストレーションも美しく、エンターテイメントとして緩むことなく楽しめます。

この上演は演出もオーソドックスで衣装やライティングが美しく、多少象徴的な舞台装置や小道具で空間を効率的に構成しているくらいで実験的な試みは何もなされていないので、安心して見ていることができます。
イメージ 1上演前の楽屋風景。
背景は劇場ゆかりの劇作家モリエール

バレエもたっぷり見ごたえがあります。
イメージ 2


ミショネのアルフォンソ・アントニオッツィが印象的でした。

少し疲れて少し冴えない、そして控えめで献身的なオジサンぶりが泣かせます。
遠まわしにアドリアーナへの恋心を伝えるのですが全く分かってもらえず、逆に彼女のマウリツィオへの想いを聞かされて肩を落としながら励ますフリをします。

イメージ 3
そんなキャラクターだからあまりスタンドプレーは感じられないのですが、見せ場はたくさんあります。

単独では頼りなげに聴こえるのですが、他の誰と絡んでも全く負けない声なので、とても巧みな歌い手だと分かります。

大変渋くかつ心地良く演じていました。


アドリアーナのミカエラ・カロージは堂々たる歌いっぷりですが、やや風格になりきれない硬さが感じらます。

しかしアルバレスに全く引けを取らない声の存在感は素晴らしいものです。

詩の朗唱は実に堂々としていて聴き応えがあります。
まさにアドリアーナ・ルクブルールです。

イメージ 4
マウリツィオのアルバレスは情熱的でドラマチックで申し分ないのですが終始あまりに熱っぽくて、野心的だったり打算的だったりもするキャラクターと合わないような、贅沢な違和感を感じました。



ブイヨン公妃のマリアンネ・コルネッティは激情と執念のこもった鬼気迫る演じっぷりでこれも見事。







アドリアーナの勝気さがあだとなって迎えるラストの悲劇。
苦しむアドリアーナが異様に艶めかしく、アドリアーナを愛する二人の男、マウリツィオとミショネのコントラストが素晴らしく、濃厚な時間を味わえます。

とても楽しく良質な舞台を堪能できました。

[2011-5-20]