森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

リーリャ・ジルベルシュテインのタネーエフ

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ピアノ:リーリャ・ジルベルシュテイン
タネーエフ:前奏曲とフーガ 嬰ト短調 Op.29

NHKの放送を録画視聴









モスクワ音楽院の院長でもあり、ラフマニノフも教えを受けたセルゲイ・タネーエフ。
タネーエフは自身をポリフォニーの作曲家とみなしていたそうです。
この曲は1910年の作曲です。

このころのロシアの曲らしく、ロマンチックでノスタルジックで、印象派的な透明で多彩な響きを持っています。

ラフマニノフにもスクリャービンにもメトネルにも似ています。
みんなタネーエフの弟子ですがあらためてタネーエフを聴いてみると、これらの弟子たちは大きく飛躍してはいないとさえ感じさせるほど、個性の高みと深さを完成させています。

しかし同時に、プーランクモンポウにも似ているのです。

洗練されているようでいて、パーソナルでもあり何か民族的な「土」を感じる音楽で、理知的で超難易度のフーガもどこか「土の香り」が漂ってくるような印象です。


リーリャ・ジルベルシュテインにとっては目も眩むようなフーガも大切なのは技巧ではなくクライマックスに向けて曲をまとめ上げる事だとか。

1965年生まれの彼女はまだやっと中堅という年代でしょうか。
しかし演奏は実に堂々としていて確信に満ち、ステレオタイプな期待にも答えてくれる余裕も感じさせます。

ラフマニノフでは重層的な響きを巧みに解き明かして鳴らしますし、重厚さもメランコリーも申し分有りません。

スケールもトッカータも何の苦労もなく流麗に弾きこなしています。

しかし「これが私のラフマニノフ」というような主張はあまり感じられず、非常に聴きやすい演奏です。

そういった姿勢に私は特に問題を感じませんが、あまり彼女の名がブレークして聞こえて来ない一因かもしれません。

しかし、じっくりと音楽に浸らせてくれる極めて上質の演奏であることは間違いありません。


[2011-4-24]