森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ペーター・レーゼル ピアノ・リサイタル

ペーター・レーゼル ピアノ・リサイタル
2009年10月12日 紀尾井ホール

ピアノ・ソナタ 第16番ト長調 Op.31-1
ピアノ・ソナタ 第21番ハ長調 Op.53 《ワルトシュタイン》

NHKの放送を録画視)

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ドレスデンで生まれドレスデンで学び今もドレスデンに住むピアニスト。
旧東ドイツ演奏家だけあって、モスクワ音楽院に留学もしています。

名前は広く知られていますが、来日は多くはなく演奏も知られている方ではないのではないでしょうか。


非常に感銘を受けました。

タッチがとても精巧で、色々な粒立ちの音を使い分けます。
そのタッチを駆使してリズムも鋭かったり柔らかかったり、自由に引き分けます。

音色は硬くもなく柔らかくもなく。
きらびやかではないが重厚でもない。

音楽性にもベートーヴェンらしい押し付けがましさや、ある種の強引さが感じられず実に自然です。

自然というのは例えば16番で言えば、モーツァルトみたいな自然さではなく、スカルラッティやバッハのようです。

人間の心の力学より自然の力学に想いを馳せるような表情です。

そう言うと無表情であったり地味であったりという想像をするでしょうが、タッチが多彩なため全くそんな事はありません。
一瞬一瞬が聴きどころであり、音楽の喜びを感じることができます。

そしてその全ての瞬間が、これ見よがしに音を転がしたりリズムを突きつけて来たりはせずに、音楽の全体像に貢献しています。

大雑把な耳で聴くとお手本のような演奏であり、耳をそばだてればとてつもない表現の幅と全体への回帰が奇跡的なバランスで鳴り渡る名演を聴くことになります。

ワルトシュタインをメロドラマにせず、大声で訴えることもせずにこんなに心に迫ってくる演奏は初めてです。


日本で四年越しのベートーヴェンソナタ全曲演奏会が進行中です。

すばらしい成果となるでしょう。


[2011-4-11]