森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

パリ・オペラ座バレエ 《バレエ・リュス》プログラム

パリ・オペラ座バレエ バレエ・リュスプログラム

指 揮:ヴェロ・パーン
NHKの放送を録画視聴
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《バレエ・リュス》はフランス語でロシア・バレエの意味です。
ディアギレフが主催して当時の世間を騒がせたバレエ団です。
ストラヴィンスキー春の祭典の騒動で有名ですが、他にも錚々たる作曲家・演出家・指揮者・美術家などが参加しています。

作曲家はドビュッシーグラズノフ、サティ、プロコフィエフなどなど。
指揮者はアンセルメ、モントゥー、アンゲルブレシュトなどなど。
美術はピカソ、ミロ、マティス、ルオーなどなど。

音楽や美術と服飾や装飾の融合という大きなムーブメントを作るほどの力をもった活動だったのです。


ばらの精
編曲:エクトル・ベルリオーズ
振付:ミハイル・フォーキン
衣装・装置:レオン・バクスト
ばらの精=マチアス・エイマン
少女=イザベル・シアラヴォラ

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少女は胸に差した薔薇の香りで眠りに落ちてしまい、その手から薔薇が
落ちると薔薇の精が現れ、眠ったままの少女と踊る。

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ウェーバーの《舞踏への勧誘》に良く合ったイメージを作っています。

イザベル・シアラヴォラは眠った表情のままの演技。
重力にもたれかかるような難しいバランスの演技が続きつつ踊りとして決める所は決める。すごい技量だと思います。
それを支えつつ華やかさを演出するマチアス・エイマンも表現力の豊かさを見せてくれます。

例のゲネラルパウゼの後、夢から目覚めた少女の表情の可憐さも素晴らしく表現されていました。

しかし、マチアス・エイマンには悪いけどニジンスキーで見てみたかったという欲求にかられてしまいました。





牧神の午後
振付:ヴァーツラフ・ニジンスキー
衣装・装置:レオン・バクスト
牧神=ニコラ・ル・リッシュ
ニンフ=エミリー・コゼット
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好色な牧神が女性に囲まれる妄想をするという、単純なストーリーですが牧神の動きと女性たちとの様々な形での掛け合いが楽しめます。
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ニコラ・ル・リッシュはいつ見ても男性の肉体の完成形と思えてなりません。
惚れ惚れとする肉体と、人体の形態美を見せてくれます。

私は彼を見ている限り、ニジンスキーに想いを馳せることはありません。


三角帽子
振付:レオニード・マシーン
衣装・装置:パブロ・ピカソ
粉屋=ジョゼ・マルティネス
粉屋の女房=マリ・アニエス・ジロ
代官=ファブリス・ブルジョワ
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粉屋の女房に横恋慕した代官と粉屋夫婦の駆け引きのストーリー。
女房が代官を踊りで誘惑した挙句、粉屋が罠に嵌めてという、ちょっと代官がかわいそうでもある話。

フラメンコをモチーフにして背筋の伸びきって精悍なダンスは、もちろんフラメンコもどきではあるけどとても気持ちの良い物。

私はフラメンコの舞台やタブラオも随分よく見たのだけど、ああいう情念の世界もいいけど、このようなお気楽でコケットな世界もまた良いものだと思います。

ピカソの美術が秀逸。

一目でピカソとわかる美術も全く違和感なくバレエに味わいと軽やかさを添えています。
こうして見ると、音楽だけで聴くよりも心踊らされる実に魅力的なバレエ作品です。


振付:ミハイル・フォーキン
衣装・装置:アレクサンドル・ブノワ
ペトルーシュカ=バンジャマン・ペッシュ
バレリーナ=クレールマリ・オスタ
ムーア=ヤン・ブリダール



ペトルーシュカ》はピョートルの愛称。

魔術師に命を与えられた三体の人形。
ペトルーシュカバレリーナに恋をするが、バレリーナムーア人との仲をペトルーシュカに見せつける。
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ムーア人にかかって行くペトルーシュカだが逆にボコボコにやられてしまう。

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最後には謝肉祭の喧騒の中、衆目の前でムーア人に殺されてしまう。
慄く人々はしかし人形と知れると安堵の表情でその場を去っていく。
抗議するように現れるペトルーシュカの亡霊がくずおれる所で幕。


人形三体の踊りはいかにも人形らしく手足を棒のような動きで表現していて、背筋も伸ばしたまま腰関節だけ動かすという、バレエとしては大変な成約を背負ってのダンスです。

もちろん顔の表情も無機質。

無表情でペーソスを表すというのはよくある表現手法ですが、踊りでそれをするのは大変な技術が必要でしょう。

特に無機質・無表情なのはバレリーナのクレールマリ・オスタ。
ぎこちない動きと表情が秀逸。

バンジャマン・ペッシュはペトルーシュカの哀れさを良く表現していて、ストーリーの骨格を完全に背負って立っています。

実に見事です。


このパリ・オペラ座バレエの《バレエ・リュス・プログラム》。
何度も繰り返し見たくなる素晴らしいプログラムでした。

[2011-3-29]