森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

《ニュルンベルクのマイスタージンガー》 バイロイト音楽祭 2008


出演:
ザックス=フランツ・ハヴラタ
ポーグナー=アルトゥール・コルン
ベックメッサー=ミヒャエル・フォレ
ワルター=クラウス・フロリアン・フォークト
ダーヴィット=ノルベルト・エルンスト
エヴァ=ミヒャエラ・カウネ
マクダレーネ=カローラ・グーバー

合 唱:バイロイト祝祭合唱団
指 揮:セバスティアン・ヴァイグレ
演 出:カタリーナ・ワーグナー

2008年7月27日 ドイツ・バイロイト祝祭劇場


バイロイト音楽祭は何度も映像化されていますがそれらは映像収録用の上演で、一般上演のライブ収録は初めてだそうです。

演出のカタリーナ・ワーグナーワーグナーのひ孫。
2007年の初演時は大ブーイングだったそうです。

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自分を評価してもらう席での傍若無人な振る舞いのワルター














ワルターは始めとても傍若無人で鼻もちならない若造であったのが、徐々に謙虚になっていきます。

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最後には教化を受けた好青年になってしまいます。














ザックスは新人類ともいえるワルターを応援するのですが、最後には滔々とドイツ芸術を賛美します。
これはいつも通りのマイスタージンガーですが、違うのは終局にどんどん舞台が暗くなっていってしまうことです。

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ザックスが伝統を賛美し、民衆がが「ザックス万歳」と盛り上がるのが、真っ暗な中で進行します。












つまり流れとしては伝統を賛美しつつそれが風前のともしびだと言いたいのだと思います。

だから説明調の演出かと言えばそうでもなく、終盤のスポットライトに浮かび上がるワルターの歌唱やザックスの演説は大変求心力のあるものでした。

歌唱・演奏が素晴らしく、出だしの聖ヨハネの合唱からして大変しめやかで美しく、魅力たっぷりです。

オーケストラも過度に派手になりません。しかし優美さとしなやかさ、それに要所要所のアクセントをしっかり押さえた演奏で物足りなさを全く感じさせず、ワーグナーの美点をタップリ堪能できました。


ザックスのフランツ・ハヴラタは底光りのするような素晴らしい声ですが、最後まで持ちませんでした。
しかし、説得力は失われませんでした。

ワルターのフォークトは大変甘い声で、ちょっと一本調子に聴こえなくはないけど、惚れ惚れするような美声で飽きさせません。

イメージ 4
ワルターエヴァの衣服に
Reiz = 魅惑
LIEBE = 愛

と落書きをしてしまいますが、それがこの演出におけるエヴァの立場を説明しています。
















全体にやや理屈っぽくはあるけど芸術における伝統のあり方を描いて好印象です。

演奏・歌唱も素晴らしいものでした。

[2010-11-1]