魂の入った演奏 「平和的革命」を祝う演奏会
「平和的革命」を祝う演奏会
2009年10月9日
ライプツィヒ聖ニコライ教会
バイオリン:ルノー・カプソン
合唱:
聖トーマス教会少年合唱団
合唱指揮:ゲオルク・クリストフ・ビラー
指揮:クルト・マズア
ベートーヴェン:「エグモント」序曲
バッハ:モテット「恐れるな」
平和的革命
1989年10月9日、ベルリンの壁崩壊を目前にしてドイツ各地で暴動が起きていました。
この自体を憂慮して当局に掛け合い、市民を説得し、「平和的革命」を成し遂げるきっかけを作ったのがクルト・マズアです。
彼は街に肉声のメッセージを流しました。
「私たちは現状を憂い、解決策を見出したいと願っています。」
「この国の社会主義の存続について自由な意見交換が必要です。」
「対話を実現させるために冷静になってください。」
そして市民は手に火の灯ったロウソクを持って行進しました。武器を持ち暴力を振るえないように。
マズアはライプツィヒではもちろん広くヨーロッパで英雄視されています。
魂の入った演奏
その夜にゲヴァントハウスで開かれた演奏会の再現が今回のプログラムです。
私のマズアに対する印象は、『可もなく不可もなく』。
聴いていて違和感がなく心地よいが、殊に感銘を受けるといったこともあまり無い、という印象でした。
この演奏会でもやはり全く無理のない音楽運びですが、そこには今まで感じ取れなかった感銘がありました。
一言でいうなら 『魂が入っている』 ということです。
教会での演奏ですから、サウンドの角が取れていて聴きやすいのですが、それとは別にどの曲のどの部分も、どのパートも魂がこもっていて非常に心を動かされる演奏です。
エグモントがこれほど切なく訴えかけるのを初めて聴きました。
エグモントでもそうなのですから、ロマンスやブラームスの第二番も出だしから切々と優しさや愛情を訴えて来ます。
ベートーヴェンにしてはメリハリが無いとか、ブラームスとしては雄渾さが無いとか、純音楽的な批評は可能でしょうが、それでもこの意義ある日の演奏としては最上の表現だと思いますし、なにより『魂が入った』演奏はどんな形であれ聴く者を幸福にします。
[2010-6-7]