森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

プレートル パリ・オペラ座管弦楽団 1988年来日公演


2008年のウィーン・フィル ニューイヤーコンサートがあまりに素晴らしかったため、にわかに注目の集まっているジョルジュ・プレートル。そのプレートルの来日公演の記録です。

プログラムは
1.牧神の午後への前奏曲
2.ラ・ヴァルス
3.幻想交響曲
アンコール
4.ファランドールアルルの女
5.カルメン前奏曲


プレートルの一般的な評判通り、とても表情豊かで情熱的です。テンポを激しく揺らしオーケストラを破綻寸前まで追い込んだりもします。

私の信条である 『指揮者はメトロノームではない』 を理想的に実践しています。
テンポを取るのを完全にやめてしまい、表情付けだけにしてしまうことも稀ではありません。

そのかわりその表現力は振りもさることながら顔の表情が激烈で、これではオーケストラも指揮者を放置することは無理でしょう。

ある種の冷たさみたいなものが支配しているはずの《牧神の午後への前奏曲》がとてもウォームになっていて、通常は寒色系のカラフルさに感情移入がそこそこで拒まれてしまうこの曲がとてもエモーショナルで情感に包み込まれるような音楽になっています。

ラ・ヴァルスはまるでボレロのように完全に燃え上がり系の音楽になっています。
しかしカラフルさと精妙において《牧神》とともに、各楽器がソロとしての表現上の妙技を思う存分発揮しています。

プレートルはまるでソロ楽器奏者のようにオーケストラを即興的に『弾きまくって』います。『指揮者は楽器を奏でるわけでなく、人の心を奏でる演奏家だ』という朝比奈隆の言葉が思い出されます。

幻想交響曲はプレートルがちょっと頑張りすぎて、特に金管があたふたしてしまう場面がまま有ったのが少し残念です。
あまり退廃的な感じではないのですが、繊細さを極めきった出だしや第2楽章から、崩壊寸前にオーケストラをふり回した第4・5楽章など、表現のダイナミックレンジが並大抵ではありません。
テンポが激しく揺り動くけど差し引き0に収まって来るつじつまの合い方で、決して線の細い気紛れさを感じさせない、繊細であり堂々とし燃えるような音楽です。
色合いもドビュッシーラヴェルと同様暖色系の官能的な豊かさで、歴史的名演だと思います。


アンコール二曲は完全にイケイケモードで、特にファランドールは崩壊寸前というか、事実上崩壊していたのですが、縦の線が合っていることで崩壊感がある意味で達成感に転換したようなパフォーマンスでした。それでも官能的な音色はずっと保っているのは貴重な美点です。


プレートルという人はオペラ指揮者とばかり考えていたので、コンサート指揮者としての再評価は私にとっても新しい楽しみを増やしてくれそうです。

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表情だけ見ていても楽しいほどです。
オケピットは狭いし暗いしでこんな指揮は出来ないのでは?。
音楽的にも、これでは舞台上の歌手と呼吸が合わせられないと思うので、コンサートモードなのでしょう。
客席からは指揮者のこういった表情は見ることができません(サントリーホールの後部席がありますが、音響的に問題ありです)。スクリーンで実況したらどうでしょうか?間違いなくコンサートが一段と楽しくなると思うのですが。


[2010-1-23]