森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

イリーナ・メジューエワ レクチャーコンサート

イメージ 5イリーナ・メジューエワ ピアノで辿るショパンの想い
 
2009-11-14
サンハート ホール

横浜市旭区で企画したレクチャーコンサートの第三回です。
会場は相鉄線二俣川駅直結の旭区民文化センター内
サンハート ホール》
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前半・後半のそれぞれ開始時にメジューワさんがレクチャーをしてくれます。
日本在住10年以上になるメジューエワさんは日本語はもうすっかり板についています。

イメージ 3今日はバラードが主題です。
ミツキエヴィチのバラードを朗読してくれました。
ミツキエヴィチはショパンがバラードを書く動機となったポーランドの詩人です。
(レクチャーもバラードも原稿なしです)

さて、残念ながらこのホールは音楽には向いていません。
背後に反響版を設置してはいますが、他は音に対する配慮は全くされていません。
全く反響・余韻がありません。ピアノには余り反響が多くても音が混濁して良くありませんがそういった次元ではありません。
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休符のたびに人いきれが充満しているのを実感することになり、現実に引き戻されてしまいます。
特にピアノという楽器にはチャレンジングです。音の重なりで音色や、クレッシェンドを表現しなければならないのに、そういった会場効果が極めて希薄なので演奏スタイル自体を維持できないでしょう。

ピアノはYAMAHAでした。
YAMAHAのピアノはこういう条件でもある程度ピアノ内部できらびやかな響きを作って飛ばしてくれる、と思っていたのですがどうもこれもさえない音です。
いつ調律したのでしょうか?それとも調律後に移動させたかな?

打鍵の瞬間がすべて吸い取られるので特に低音と高音がピアノとは異なる柔らかい音の異なる楽器のようでした。
そういうわけで前半はフラストレーションがたまる内容だったのです。
畳の部屋で古いアップライトを弾いているようで、メジューエワの音楽性を想像してみるしかありませんでした。

休憩時間にかなり念入りに調律をしていました。淡い期待をしつつ後半に入ります。


やはりメジューエワ先生による簡単なレクチャーの後に演奏がはじまります。

!ピアノが全く違います。
低音を下げ高音をかなり持ち上げたようで、YAMAHAらしいちょっと脆さのあるきらびやかな響きが出るようになりました。

しかし、この高音は私は少し上げすぎだと思います、キラキラしすぎ、中低音から浮きすぎで、きれいだけど据わりの悪い感覚を持ちました。

会場の響きのなさ、休止符で現実に戻される感覚はそのままですが、演奏の質はわかるようになりました。

メジューエワショパンはとても柔らかく流麗でした。音は前述のようにきらびやかなのですが、弾き方が柔らかいのです。
硬質な低音での迫力や交響的なスペクタクルよりも、内へ向かっていく想いとその想いや記憶から想起される憧れ・懐かしさ・悲しみ・諦めなどを美しく表現しています。

ワルツOP.64-2をシルキーに演奏して会場全体が引き込まれているところに鳴り始めたバラード第四番で、その内省的で美しいサウンドに更にハッとして息が止まるような感覚を会場の空気に感じました。

ショパンから七代目の直系の弟子であるメジューエワですが、ご本人がおっしゃるようにそんな演奏家は世界中にたくさん散らばっていて大したことではないでしょう。
良く知っているショパンとは少し違う、当たり前の演奏より『激情』をすこし押さえて様々な情感を緊張の糸で綾取るような演奏でした。


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[2009-11-14]