森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

映画 『シルク』

シルク
2007年
監督・脚本:フランソワ・ジラール
撮影:アラン・ドスティエ
音楽:坂本龍一
出演:
エルヴェ=マイケル・ピット
エレーヌ=キーラ・ナイトレイ
原十兵衛=役所広司
重兵衛の妻=芦名星
マダム・ブランシュ=中谷美紀
(DVDでの視聴)

ストーリーは単純です。
兵役から一時帰郷中のエルヴェ(マイケル・ピット)は村の製糸業を救うために日本の山村へ蚕の卵を買い付けに行くことになる。
エレーヌ(キーラ・ナイトレイ)という美しい妻がいるのだが、取引相手(役所広司)の若い妻に惹かれてしまい村へ帰っても彼女のことが頭から離れなくなる。

日本では明治維新の混乱が山村まで及び・・

イメージ 1出だしは幽玄な映像に重厚で神秘的な音楽。音楽と絵画を愛するものには十分な掴みです。


イメージ 2光と構図を練りつくし、絵画的な美しさを途切らせる事のない映像美。

イメージ 3フランスの風土も、日本の風土も、懐かしく幻想的に描かれます。


単純なストーリーと最低限のセリフ。映像と心理をやさしく補う音楽。

静かに観客を引き入れ取り囲む美しい映画です。

日本のシーンはよく考証されていて、無国籍日本の眉唾さはありません。
少し違和感のある部分も、大政奉還前夜の日本を良く知らないので、自分の知識不足か映画がおかしいのかはわかりません。

それよりも日本の風土が美しく描かれていて、どうして日本人自身がこういう絵面を映画にしないのか不思議です。

ずっと夢心地の美しさの中で静かに幕を閉じるのかと思ったら、終盤に思わぬしっぺ返しを喰らいました。

あの手紙にこめられた意味は?
これは誰の愛の物語だったのか?

エレーヌの好きだったユリの花園のシーンで幕が閉じますが、こんなに心を動かされながらエンドロールを見る事になるとは思っても見ませんでした。

エンドロールの最中何度も手紙の文面が思い出され、涙を抑えることができませんでした。
キーラ・ナイトレイの際立った美しさと裏腹の、まるで脇役のようなでしゃばらない演技と演出が、最後になって効いて来たようです。

また、坂本龍一さんが作曲とオーケストレーションを担当していましたが、本当に優れた作曲家であると改めて思いました。

イメージ 4エルヴェの旅
イメージ 51800年代半ば。極東への旅は途方もなく長い。
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イメージ 7話の鍵を握るマダム・ブランシュ。
日本から嫁いで来て未亡人になってしまっている。

イメージ 8エレーヌへの愛に偽りはないのだが・・
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イメージ 10

「この瞬間は誰にも消せない。終わりは訪れない。わかるでしょ。すべきことを遂げたわ。信じて愛する人。永遠に遂げたのよ・・・」
ああ、いかん。書いているとまた涙がぶり返す。

XXは結局何者だったんだとか、XXは何故失踪したんだとか、細かいミステリーは雰囲気で押し流してしまった感もありますが、『美』を味わうのが目的の私にはそんなことは問題ではありません。

生涯心に残る映画の一つになりました。
スクリーンで再上映される機会があったら、是非見に行きたいと思います。

[2009-3-14]