森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

ちょっとドギツイ 歌劇《ヘンゼルとグレーテル》 コヴェント・ガーデン


合 唱:ティフィン少年聖歌隊&児童合唱団
管弦楽:コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団
出 演:
 グレーテル=ディアナ・ダムラウ
 ゲルトルート(母)=エリザベス・コネル
 ペーター(父)=トーマス・アレン
 魔女=アニア・シリヤ
 眠りの精:プメザ・マチキザ
 露の精:アニタ・ワトソン
演 出:モーシェ・レイザー&パトリス・コリエ

2008年12月12,16日 ロイヤル・オペラ・ハウス


物凄いオールスターキャストの公演が楽しみです。

舞台は現代に置き換えられていますが、さほど違和感のない範囲で童話としても現代の困窮家庭を描くものとしても無理なくまとめられています。

童話と最も違うのは子供たちと父母の関係。
オペラでは子供たちは捨てられるのではなく、ヘンゼルがあまりに腕白なため仕事もせず夜の食べ物を台無しにしてしまったので、森で苺を取ってくるように命ぜられるのです。
しかも森で見つけた苺も全部その場で食べてしまい、挙げ句の果てにはいつの間に夜闇に取り囲まれて道に迷ってしまう始末。

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とにかく、ヘンゼルが粗野な子供でどうしようもない。

グレーテルもおてんば。

二人で部屋をめちゃくちゃにしてしまいます。

ああ、ディアナがこんな・・・








彼らが道に迷っている頃、父親が思わぬ収穫を得て帰宅します。
夫婦仲が盛り上がって行きつつある中、ヘンゼルとグレーテルの様子を尋ねると森へ出したという。
「なんだと!あの森には邪悪な魔女がいるのを知らないのか?」
と、慌てて子供たちを探しに出ます。

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「なあ、今日は祭りのお陰で稼げたんだよ。」
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「だからなあ」

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「だからなあ、たのしくやろう」
的な、せまり方。

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ありゃ?
食事の話か?

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いや、やはり・・・

しかし、トーマスちょっと手癖が・・・











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子供をあの森へやらせただと?

いかん、あの森はだな・・・

大変、探しに行かなくちゃ。
オレも行くさ。











よく知る童話とは随分雰囲気が違うことがわかるでしょう。




キルヒシュラーガーとダムラウは体型も声質も全く違うので分かりやすいし、デュエットも美しく響きます。

面白いのはダムラウの声がキルヒシュラーガーと比べると質量を感じる事。
声域とも役柄とも裏腹ですが不思議な安定感があります。

ダムラウはどんな跳躍も走句もタメずに的確にそして楽々と歌うので、無邪気な女の子にスタンドプレーを感じるような違和感が全くない大変好感の持てる歌唱ぶりです。

キルヒシュラーガーも全く色気が無いのでこの一種のトラウザーロールにハマりきっています。

トーマス・アレンも惚れ惚れするような歌唱と演技です。
威厳のある貴族も素敵に演じますが、ちょっと酔っ払った粗野な箒売りにもなりきっています。

エリザベス・コネルは声を張り上げるような役柄ではないので大きな体躯を有効利用した余裕のある歌唱です。
軽やかな子供たち、モッサリした亭主と良い調和をしており、キャストとしても演技・歌唱としても成功しています。

演出上魔女が魔女というよりはサイコパスなのでアニア・シリヤはもう少し奇怪な演技をして欲しかったという点が少し残念です。


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魔女の家。
奥には食材となった多数の子供たちが。

そして今その一人を調理に取り掛かります。

魔女と言うよりブッチャー。



















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金縛りになったヘンゼルの前で子供の調理が始まります。

まるで

手にしているのは生クリームですが。










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ヘンゼルを食べるのは太らせてからなので、次はグレーテルの番。

「丸くて柔らかくて美味しそうだのう・・・」












オーケストラは表情豊かかつ中庸を得て、デイヴィスらしい重厚さも時々顔をのぞかせる聴きやいものです。

そもそもグリム童話自体が非常にブラックなのですが、その片鱗を残しつつコミックな演出も施し子供も見ることができるように仕上がっています。
大人は大人で楽しむこともできる非常に優れたプロダクションだと感じました。


[2011-12-4]