森羅観照記

つれづれなるままに・・。当世ではそれを「チラシの裏にでも書いとけ」と呼ぶそう。

映画 レンブラントの夜警 - グリーナウェイ

レンブラントの夜警
監督・脚本:ピーター・グリーナウェイ
出演:
レンブラントマーティン・フリーマン
レンブラントの妻サスキア=エヴァ・バーシッス
使用人ヘンドリッケ=エミリー・ホームズ
DVDにて鑑賞
イメージ 1

イメージ 2始めに説明しておきますと、『夜警』というのはニスが汚れて薄暗い絵に見えていた時代に通称になったもので(1800年頃だそうです)、洗浄後は昼間の絵である事が明らかになっています。
正式な題名は
『市警備隊バニング・コック隊の集合』
とか
『フランス・バニング・コック隊長の市警団』
などと呼ばれています。(1642年製作)

この絵は絵画史上特筆すべき作品とされていますが、現代人の感覚からするとこの絵のダイナミズムがどう凄いのかわかりにくいと思います。

この絵が歴史画や宗教画、あるいは特定の災害や事件を描いたものではなく、肖像画として注文され描かれた、ということ考える必要があります。
現代風に言えば、商工会の入り口に飾るための理事の集合写真、みたいなものかもしれません。

そう考えるとこのセンセーションが理解できるでしょうか?


レンブラントはこの絵を境に突然凋落してしまいました。
グリーナウェイ監督がその謎を解き明かす、となっていますが・・


この映画でグリーナウェイは徹底的に絵画的な構図とライティングにこだわっています。
カメラがパンすることは極めて稀です。ズームも中心を維持した寄りばかりです。
イメージ 3

役者も「ライティングが狂わないようになるべく動かないで!」と指示されているかのような神経質な動きで、演技に動感はありません。

イメージ 4しかも顔はほとんど前向き。つまり舞台劇モードの演出です。

とてもきれいだけどダークで、見ているこちらも140分間構図に縛りつけられ、とても疲れました。

イメージ 5このシーンは長い会話が続きますが、カット割りはありません。
レンブラントが顔の向きを変えることもありません。

状況や陰謀の筋書きや顛末は全て登場人物によるカメラ目線の独白で解説されます。
極端に言うと美しい実写画像付きの放送劇といった感覚に陥りそうです。

ストーリーは完全にグリーナウェイの創作です。プロットとしては欲望陰謀がからみ面白いものですが、俗っぽく描けば面白いものをわざわざ静的な描き方をしているのでミステリーやサスペンスの要素が感覚的に得られないようになっています。
一人の絵画の愛好家として、彼の推論に対する反論もあります。

イメージ 6では、この映画をどう読み取ればいいのか?今、はっきりと自分にとっての価値を図りかねているところです。

グリーナウェイはそれなりに入れ込んで研究したらしいので、彼の思い込み方を楽しむか、「ああ、そういうこともあったのかも知れないな」と知的に楽しむか?

いずれにせよ見終わった後、美しい配色や構図を沢山見られたということと、この時代には社会のどこにでもあったであろう暗い日常をなにもレンブラントで見せられなくても・・、と言う思いの間を行ったり来たりしている状態で、総合的な満足感が判断できないというところです。


演者について一言。
レンブラント役のマーティン・フリーマンは大変な熱演だったと思います。
イメージ 7「この目は30年間お前を見ることを待っていた」

しかしやはりコミカルな動きが身についていて、ハラハラしてしまいましました。シリアスな大変調を表現しているのか?それとも笑いどころなのか?などど、見方を考えてしまうのです。
この役が完全に隙のないシリアスで神経質な印象をもたらす俳優だったら、レンブラントの勝ち目のない悲愴な闘争を描いた映画になっていたと思います。

イメージ 8《銀河ヒッチハイクガイド》のマーティン・フリーマン
こちらは大好きな映画で、彼もはまり役。

[2009-6-21]